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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

神様の目

胸が空くような、雲一つない青空を見て、
「雲のない空は吸い込まれてしまいそうで怖い」という友だちの言葉を思い出す。
わたしはいつでも吸い込まれてしまいたいよ。
空のようになってしまえと思うよ。
変わらず暑さに縛りつけられる心!と夏!ココ☆ナツ!




アレハンドロ・ホドロフスキーの「リアリティのダンス」を観て、
ホドロフスキーの想像力の清さに心底驚いた。
あの人の映画は確かに世界のためにあって、
世界とは「わたし」ではなく「あなた」なのだということが、見事に映像化されていた。




神様の目_f0112996_18561454.jpg





パンフレットの言葉に、「わたしはどんな神も信じていない。わたしは神を知っているからだ」とあったけど、
きっと彼は「わたしの目にはあなたは高価で尊い」という聖書の言葉を本当の意味で知ってるに違いない。
人間の心が感じている歓びも、悲しみも、不安も、暴力も、性欲も、虚飾なく顕わされている。
それに価値があると知っている人にしかできない方法で。



ホドロフスキーの目は人の心を見つめることができて、
ホドロフスキーの手は人の心にさわれるんだと思った。
花を愛でるように優しく、握手でもするように容易に。
ただ事ではない体験だった。
ここまで書いたのに、何も伝えられている気がしない。
# by mouthes | 2014-08-06 14:44

美しくないわたしの物語

問わず語りが板についての2014年。もうすぐ25歳になります。

最近音楽を聴いていて、思うことがあります。
それは、少し変な言い回しですが、音楽がまるで人間のようだということ。

音楽それ自体は「人」ではないし、それは小説や、映画や、絵画や、あらゆる芸術作品に言えることです。
作品それ自体は、「人」ではない。

それなのに、まるで出会ったように感じるのです。
その「人」と出会って、話しかけられて、揺さぶられて、私が変わっていく。
聴くまえと聴いたあとで、何かが変わってしまうことを、はっきりと感じるのです。
同じ作品の同じ所で、違うときに聴くだけでまったく違う形になっていく。
他ならぬ「私」自身が。
もちろん、曲は変わらないのに。

これはありふれた言い回しですが、まるで魔法のようです。

私たちの揺れ動く体や心は、いずれ無くなっていくもので、それでいいのだと思います。
そして過去は記憶の中にしか存在せず、
別れた人と会うことは、きっともう二度とない。
年をとればとるほど、さよならは一生ものだ。
会いたい人も、会いたくない人も、どんどん会えなくなっていく。

あの時の自分も、もう私ではないんだ。
過去にしかいない存在に、想いを馳せても届かない。




だけど作品は残る。
形を変えずに残る。
いずれ消えてしまうかもしれないけれど、人間よりは確かな形で、人間らしい顔をして、
同じ時の同じ場所から、未来の私に語りかける。
人には会えないし、相性が良くてもこっぴどい失敗をしても別れたら別れっぱなしになるほかないのだけど、
できごとを愛して生まれた形は、残すことができる。
それがまるで人間のように、何度でも私と出会って、私を変えてくれる。
音楽は思い出だ。
その時のその人を残す、いつも、時折、思い出してしまう思い出そのものだ。




今日は久しぶりに強く夏を感じた。
私が思い出したのは2年前の初夏だ。
あれはひどく苦い思い出だ。
結果としてそうなってしまった。
あの人と会うことはもう二度とないだろうし、会いたくもない。
私は苦しんだし、あの人を傷つけたし、周りの人にたくさん迷惑をかけた。


だけど、ふと、こまぎれに場面を思い出す。
夕食の材料を買って近所のスーパーから歩いた夜道。
ふ、と下を向いて笑う仕草。
中身のないおしゃべり。
溶けかけたアイスと、携帯のアプリを使った囲碁。
クーラーの利いた部屋と日曜の間延びした空気。
そういうのってすごくありきたりで、どっかで聞いたことのあるような話で、
日常系の漫画にしたって鼻白むような場面なんだけど、
あのとき感じたときめきはとても綺麗だった。

いい加減消そうと思う。
もう腐ったので捨てて埋めたものを掘り返すようなことだから、
日記に消しゴムをかけるようにして全て忘れてしまおうと思うんだけど、
手が止まる。

あの人はろくでもないし思い出は苦いけれど、
あのとき感じた情動だけは、美化しなくても綺麗だ。
それを拒絶する必要は、ないんじゃないか。



私はこれを、恨んで、怒って、憎んでいる思い出だと思っていた。
傷つけられた屈辱だけを大げさに扱って、ずっとそう思い込んでいた。
でも忘れられないのは、悔しいからじゃない。
楽しかったからだ。
心地よかったからだ。
だから、忘れなくていいんだ。

私はもうあの時の私ではないし、あの人とはもう二度と会わないけれど、
たまに懐かしいと思うことくらい、してもいいんだ。



私はもう失敗した私を責めないし、
あの時はわからなかったあの人の弱さを、もう憎まない。
あれは失敗だった。それだけのことだ。
キラキラしていることもあった。それだけのことだ。
肯定するなんて言葉ほど単純じゃない。
あれが良かったか悪かったかなんて決めたってしかたない。
なかったことにはならないし、思い通りにもならない。
それでも「あったこと」をただ「あった」って認めることが、
こんなに柔らかい気持ちにしてくれるなんて知らなかったよ。









わたしはずっと、
「あったこと」が知りたかったんだ。
そしてそれを教えてくれるのは、自分でもなく、他人でもなく、
時間だけなんだ。
時間が経って、あとに残ったものだけ。
音楽のように、変わらない思い出が、私と出会って私を変える。
そのことがわかって、本当に良かった。

今日は良い日だ。
# by mouthes | 2014-07-25 18:12 | footmarks
「花が咲いたのはいつ?」「涙のあとに」_f0112996_2332026.jpg



四十九日のレシピ。


タナダユキの、最初に笑わせて掴みはオッケーな感じが好きだ!
女性で、性の風通しが良くて、人を笑わせようとする監督って、日本でタナダユキだけじゃないかな。

穴のあいた風船に、ふうふう頑張って息を入れ続けるがごとく、
ちぎれた心にぎゅうぎゅうと愛を込め続けるような切なさ。

どうでもいいところでぼろぼろ涙が出るのは、
登場人物の感情が、見せつけるのでも表現するのでもなく、ちっちゃなほころびからぼろっとこぼれて、
心の中に流れ込んできてしまうからだ。

コロッケパンを突き放した後に訪れた別れ。
思い切って大宴会をしようと言いだした良平さんの明るい声。
百合子が浮気相手を目の当たりにして何度も感じる屈辱、子どもに見せた笑顔。
若い日に乙美さんを追いかけた良平さん。
あとからあとから人がやってくる四十九日の大宴会。
イモちゃんに最後の檄を飛ばす良平さんの強く震えた声。

わかり合おうとするのではなく、寄り添うために擦り減るのでなく、
みんなの「君が好きだよ」っていう素朴な気持ちが交差して、また離れていく。
それに感化されて泣くわ泣くわ。
これ劇場で観なくてよかったなあ。


それにしても永作博美って、「八日目の蝉」もそうだったけど女の人の心の隙間を表現するとこの上ないよな。
俳優でいうと誰だろう。西島秀俊か。「さよならミドリちゃん」か。

心がしっかりした形をしていたときなんて、今まで一度だってない。
ぐにゃぐにゃしながら、がちがちになりながら、びちゃびちゃになりながら、からからになりながら、
あれー?こんな形だったっけ?って毎日が過ぎていく。
傷口が膿んで、それが喜びを生んだりして、うれしいんだかかなしいんだかわからなくて、
ほんの少しずつ言葉にしながら、心を分け合っていく。
正しいとか間違ってるなんてこと、とうの昔にどうでもいいことだ。



そーれにしてもタナダユキの映画も、エイドリアン・シェリーの映画もそうだけど、
男がショーもなさすぎるな!!!

昔は「男の人のダメな部分を愛す」視点みたいなこと考えてたけど、
ちょっとつまらなすぎるよなー!

乙美さんに十分愛を示せなかったことを悔いる良平さんも、
不妊と介護に誠意を尽くしてきた妻に貞節すら守れなかった夫も、
ほんとになんかこう、びっくりするわ。
うちの家族の男たちが皆よくしゃべる感情表現の得意な人間だからだけど。
当たり前じゃないんだなあ、思ってることを口に出すって。
自分の考え一つでどうとでもなったことをどうにもできなかった後悔って、さ、
ほんっとくだらねえ。つまらないし。関わり合いたくない。

でも、やっぱり人を愛するっていうことはさ、人のそういう部分すら愛するってことなのかもしれない。
乙美さんがしたように。百合子さんがしたように。



あー、良い映画だったな。
華美じゃなくて、感情に訴えかける熱量が低くて、器用じゃなくて。

平熱のままで、とても良い映画だった。
# by mouthes | 2014-06-24 01:06 | Movies&Books

弱さそれ自体の魅力

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友達と議論しながらあーだこーだいって読んでる。
強さの対比としての弱さ、克服されるべき端緒としての弱さではなく、

弱さが放つ強烈な魅力。

弱い者だけが持てる切実さ。
死んだ物だけが持つ特別な娯楽価値!










芥川龍之介の「芋粥」の切実さ。
「「芋粥がたらふく食べたい」がしたい」という人の心の不条理。

負け犬根性植え付けるわけじゃないけど、
勝つことが目的でない戦いというのもあるんだよ。
自分が強くなるためじゃなくて、誰かを守るためのね。

ね、のび太くん。



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# by mouthes | 2014-05-17 03:58 | footmarks

わたしのがん、心の

自分が何より大事で自分にしか興味がないくせに、
欲しいもののためなら平気で自分を捨ててしまうこの性癖がわたしのがん。

そんな風に欲しかったものを手に入れても、
同化はできるかもしれないけどそれに価値を与えてくれる「わたし」が消え去ってしまうの。

だから人に好かれたいのに、人の好意の価値がわからないんだ。
愛玩されても満たされないんだ。
わたしが見失うべきでないのは神様で、
「わたし」に価値を与えてくれる自意識。

大事なものを、大事にしたいよ。
永遠に。



andymori / Peace


# by mouthes | 2014-04-25 20:36