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忘れたこと

友からの手紙に、私が昔よく歌っていた歌のことが書かれていて、
思いがけないことに、私は自分がよく歌いながら下校していたことなどその時まですっかり忘れていた。
これでも昔のことをよく覚えている方だと思っていた。
物持ちもいい方だ。
人の名前や誕生日、流行った歌、年賀状のやり取り、行ったことのある場所、
そういうものをかなり覚えているし、「よくそんなこと覚えているね」と人から驚かれることもよくあった。
でも友の手紙を読むまで、あの頃気分が良くなれば必ず歌っていたその歌をすっかり忘れていたのだ。

考えてみると私の思い出というものはかなり偏っている。
嫌いなことや自分の失敗はやたら鮮明だし、夢もよくみる。
マラソン大会で私を肘で押しのけて入賞した女が生徒会長になったこと、その女と6年間スキー教室の班が同じだったこと、好きな人が学年で一番可愛い女の子と付き合ったこと、人を集めすぎて急につまらなくなった花見、馴染めなかった教会のキャンプ、
案外自尊心が強いのだろう。自覚はある。
もちろん1人で観た映画やライブ、友達と忍び込んだオールナイトイベント、親友との二人旅、好きな人と交わしたメール、家族が祝ってくれた誕生日、憧れの人とした握手、
楽しい記憶も数限りない。
でもどれも嫌な記憶に比べて画質が荒い。
靄がかかっている。
思い出す回数が少ないので補正が利いていないのだと思う。

別の友達からもらった手紙にも、昔自分が話した言葉なども書かれていて、
それがなかなか実感がこもったいい言葉なのだが、
やはり忘れていた。
立派なことをいうものだと他人事に感心してしまった。
そういうことはよくある。
人の悩みも自分の悩みも、あれだけ時間をかけて色々な言葉を交わした割に何も思い出せない。
メモさえあれば多少なり思い出せるような気がするが、すべては後追いだ。

過去の集積が自分を作るというのはもっともだが、
覚えている自分と覚えられている自分というのは愕然とするぐらい違うのだろう。
「恥の多い人生」と思ってはいるが、それは都合のいい恥のみを編集してよく思い出しているにすぎないのかもしれない。
記憶の空白や靄の方が、見たくないものを孕んでいることもある。
自分は案外いいやつだ、と自惚れて足元をすくわれたことも多い。
上手くはない記憶だが、ちょうどいいのかもしれない。

by mouthes | 2018-05-02 10:25 | footmarks