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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

今日は帽子を洗おうか・つづき

そうそう、志村ふくみさんの話。

志村さんの織物は「紬織(つむぎおり)」と呼ばれるもので、
ここでは紬織自体の説明は省くとして(あまり詳しいこと、正確なことは言えませんので)、
とにかく、すごい。



オルセー美術館でミレーを見ていたとき、ナビゲータの女性がこんなことを言っていた。

「このミレーの『晩鐘』は、あまりに美しいので壊したくなるような人が多くいて、
 ある人はナイフを持って向かってきたといいます。
 なのでこの絵は分厚いアクリル板で保護されているんです。」

その言葉ははったりでもなんでもなく、
『晩鐘』の前に立った瞬間にあたしはどうしようもなくどきどきしてしまった。
触りたい、と思わずにはいられなかったし、触ればそのまま入り込めそうなほどの存在感があった。
晩年のゴッホはミレーの絵を写生することで鬱を癒していたという。
それほどまでに、少なくともあの『晩鐘』には、穏やかで温かく、そこにはやさしい祈りがあった。

と、ここまで書いてしまうほどミレーの絵はものすごかったわけです。

そして志村ふくみさんの紬織に、そのミレーの絵に通ずる「何か」があったのです!
一目見て「袖を通したい」と思ってしまう、色が「着なさい」と語りかけてくるような「何か」。
あれはすごい。
とってもすごい。


素敵な予備校の先生は、志村さんの紬織と出会って「弟子入りをしたい」と思うほどに惚れこまれたらしく、
現在もそのように今後を調整中だとか!
こちらもすごい。
何十年か経ったらでもいいので、思い出したら私の着物を織ってください、と頼むとあのかわいらしい笑顔で「うん」と言ってくれた。
この人が織るのなら、きっと素敵な着物に違いない。
思い出してそう思わせるような素敵な、いつもの笑顔だった。


そんな日、帰りの電車で1日かぶり続けていた白い帽子を見ると、うすく汗がにじんでいる。
ぼんやりと帽子を洗いたくなる、今日は風が強い。
by mouthes | 2007-08-22 20:14 | footmarks