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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

辰吉丈一郎

リンカーンを録ったつもりが辰吉さんのドキュメンタリーになっていたので、
朝、何の気無しに見てしまった。




号泣した。





タイでの復帰戦は、輝かしいとはいえない負け様だった。
余裕をかまされ、数え切れないパンチをもらい、最後にはタオル投入に因るTKO負け。
あたしは所謂「かつての姿」を知らない。
そんなあたしにさえ衰えを感じさせてしまう姿だった。



しかし痛々しさよりも鬼気迫る闘志が、
諦めよりも絶えない希望があった。
あたしは「絶対に勝つ」と思ったし、その場にいたファンも、辰吉さん自身も、そう信じているように見えた。
どんな根拠よりも確かな、細く強い光のような気持ち。
よく出来たマンガや映画のように、彼は全身にそれを背負って、足をふらつかせながら、上体を起こしながら、
それでもなお「負けない」と、語るともなく語っている、そんな風に見えた。



格闘技は勝利がすべてだと思う。
辛い練習も、プレッシャーも、将来のリスクも、全ては勝つためにある。
格闘技は、格闘技だけはそうでなくちゃいけない。
負けてもいい格闘技なんてない。


辰吉さんは負けた。
それに違いはない。
しかしそれすらも、次を見据えたもので、
彼の輝きにはどこまでも未来がある。
一度は引退勧告を受け、第一線を退いた身であるにも関わらず。
そんな風に闘える人が、一体どれほどいるだろう。
「もしかしたら、この人なら」と思わせてくれる背中を持つ人に、どれだけ出会えるものなんだろう。


辰吉さんがパンチを食らうごとに強くなるファンの声援も、
コーナーポストに自力で戻れないほどの朦朧状態の中闘い続けた辰吉さんの姿も、
「次は勝たな」と笑う試合後の笑顔も、
胸が熱くなって、涙が止まらなかった。
最高にカッコよかった。
見ていたいと思った。
負けの美学なんてしゃらくさい、きな臭いものではなくて、
何度負けても次の勝利を信じる強さが、「かつて」より何倍も強く、確かに輝いていた。
by mouthes | 2009-03-18 10:45 | moments!