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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

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03. 卒業

窓から差し込む四角い光が、ときどき黒い影にさえぎられる。
時折訪れる揺れは、聞いたところによると人をいちばん和ませるリズムだという。
僕は今日、この制服を着て学校へ向かう最後の電車に乗っている。
ほとんど人数のいない電車のなか、変わらない一面田んぼの景色。
まだまだ強めの暖房が、眠気に拍車をかける。
2両しかないこの電車の、僕のいない車両で、女の子たちがくすくすとおしゃべりをしている。
僕はマフラーに顔をうずめ、少し深く息を吸い込んだ。
止めてみる。
目を閉じて、あいつの顔を思い出す。

「私、卒業の日に、ここを出るわ」

僕の方など一切見ずに、横に並んだ彼女はつぶやいた。

「あなたと会えなくなること、寂しいけれど、耐えられないほどではないの」

あまり表情のない横顔が好きだった。見慣れた横顔が、意味を変えていく。

「だから、終わりにしましょう」

勝手なことを言いやがって。
僕に何の言葉が残されてるっていうんだ。
涙すら、追いすがる肩すら、切なくなれる余裕すら、残してはくれなかった。
「終わりにしましょう」なんて、同意を得るためだけに尋ねるような口ぶりで、突き付けただけじゃないか。
何しろ腹が立つのは、それを受け入れてしまった自分だ。
物わかりのよさそうな顔でうなずきやがって。
何も聞かずに彼女と別れて、別れた場所から少し歩いたところにある長い階段に、
座ったまま何時間も動けずにいた。
彼女との付き合いは、いつもそんな風だった。
彼女はいつもしたいことをして、僕は自分が何をしたいのかすらわからない。
そして立ち尽くす。
閉じていた目を開ける。
なあ、あの時僕が尋ねていたら答えたかい。
君にとって僕がなんだったのか。
その時ポケットにしまってある携帯が震えた。
彼女からの電話が鳴っている。
跳ね上がる心拍数と、震える手。直る姿勢。慌てている分の帳尻を合わすように、なるべくゆっくりした動作で電話に出る。

「もしもし」
「もしもし。・・・突然ごめんね」
「いや、いいけど」
「私、早い電車に乗ったから、もう空港に来てるの。卒業式には出ないんだ」
「うん」
「ここにはもう、帰ってこないつもり。最後に話したい相手はいないかって考えたら」
「うん」
「あなただった」
「うん」
「うなずいてばっかりだね」

聞きなれた苦い笑い声。
僕は、あれやこれやと語る彼女の夢のような話を、いつまでも聞いていた。
ここを出て、都会に暮らして、一人で生計を立てて、なりたかった自分を手に入れるんだ、と。
そんな風にはいかないよ、と思いながら、そうなったらいいね、と相槌を打って。
君が描いてる夢に僕はいるのかな、と思いながら。
彼女の話を、ずっと聞いていたかった。僕は何も言わなかった。

「この土地は嫌い。大っ嫌いだったけど」
「うん」
「あなたのことは好きだった」

僕も、と言いかけてやめた。
いや、声が出なかった。
彼女の言葉が、思い出を語っていたから。
失ってしまったものを、懐かしむような言葉だったから。
僕にとって彼女は、何だったんだろう。

「僕は」
「うん」
「今でも君が好きだよ」

行かないでくれ。一緒にいてくれ。僕がついていくから、連れて行ってくれ。今から会いに行くから、待ってくれよ。
そんな感情が渦になって、口から出そうになるのを、何かが必至で抑え込んでいる。
彼女の横顔ばかりが頭の中に蘇る。

「ありがとう」
「ねえ」
「でも、もう行かなくちゃ。最後に声が聞けてよかった。元気でね」

突然電話は切れた。
世界が一瞬で元に戻った。
電車はもうすぐ学校の最寄り駅に着く。
女の子たちは相変わらずささやくような声で笑っている。
僕は卒業式に出るだろう。
そこにいない人のことを想って泣くであろう自分を、先に笑っておいた。
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by mouthes | 2012-11-26 07:01 | words

余韻

介護実習の余韻から未だ冷めやらぬ日曜日。
本当に楽しかった。
みんなの様子が気になる。
研修先の雇用情報を調べるなど、変化というには異変と言った方が・・・

お年寄りの場合は、「和が大事」なんてよくよくわかっていることだけど、
それを子どもたちと共有するのは大変なことだなー。
自分がわかってなかったし。
あの時は、「みんなが大事」って言われた時の「みんな」に自分は入ってなかった気がしていたからなあ。
ひとりひとり、顔と名前を憶えて目を見ることが大事だなあ。
大事にされなきゃわかんないけどね。

よしっ、がんばるぞー。
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by mouthes | 2012-11-18 12:19 | footmarks

涙の介護実習

教職に必要な介護実習中なんですが、
本当に充実していて、
やりがいしかない。
毎日行くのが楽しみ。
早起きも苦じゃない。
こうやって書くと白々しいけど、本当に楽しいの。
自分にこんな面があると思わなかったほど。

研修させて頂いているのはデイサービスという施設なんだけど、
動くことや食事に介助が必要なご年配の方が利用者で、
正直なところまともに言葉のやり取りできるのかどうかさえ不安だった。
介助が必要なお年寄りなんてほぼ接する機会無かったし。
認知症、って一言聞いただけで意思疎通は難しいように思えたし。
だいたいご年配の方とまともに会話したことがない。
ちゃんと話したことがあるのはじいちゃんとばあちゃんとか、親戚だけ。

でも皆さんはっきりと意志はあって、言葉が伝わらないということのほうが少ないし、
ほんと良く笑って、刺激に対して敏感な方がほとんどだった。
話していて楽しいし、聞き役になることでこっちが満ち足りる。
「聞いてやってる」なんて意識は毛頭ないよ。
皆さんがどんなこと考えてるんだろう、どんなふうに過ごしてきたんだろうって想像するだけで楽しいんだから。
普段の生活では聞き役なんて考えられないんだけど。
やっぱ長生きはするもんだなー。
赤ちゃんと一緒で、お年寄りも天使だもん。
生きてるだけですげえよ。人並みでも一通りでもねえ。

意識がある分、体が思うように動かないっていうのはとても苦しいと思う。
私だって動くことに何の問題がなくても、どこか体が痛いだけで気分が落ち込む。
それ思うとね、悲しくなっちゃうけど。
調子のいい日や悪い日は確かにあって、
初日にお手玉をつかんで離す動作すら困難だった方が、
腕を伸ばして少しでも遠くに投げようとすることができる日があったりして、
本当にこの2日は泣かされるばっかりで。
そこに集まった人すべての幸せと健康を祈らずにはいられないよ。

大きな声で笑うだけで場が活気づく。
ゲームを思いっきり楽しむだけで全体の集中力が高まる。
退屈している人が一人減るだけで空気が明るくなる。
楽しそうにしているだけで誰かのためになるなら、いくらだってするよ。
私は苦悩なんていらないよ。
自分をなぐさめる必要もない。
みんなと笑ってるだけで元気になってるのは私の方だよ。

明日が最終日。
仲間にも恵まれて、打ち上げの準備もばっちりです。
ハレルヤ!


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by mouthes | 2012-11-15 23:31 | footmarks

顔のマッサージ

顔のマッサージが気持ちいい。
もっと顔の皮膚が薄くなればいいのになー。

次から次へと迫りくる課題を体当たりかつのらくらとかわしております。
大変だー。
いつだって季節が待ってくれないように、私の青年期が過ぎようとしている・・・
大人になろうとしている・・・
でも、変わらない部分もたくさんあって。





大事なものが、大事な人が、増えていく。
割り切れるものは減っていく。
重なり合っては、変なところでちぎれて、その度に涙もろくなる。
抱えられるものは減っていく。
身軽になって求めているものがはっきりわかる。

「空也上人がいた」で描かれていたことは、そういうことかなあ。

今日のバイト中にぼんやりと、
「ああ、これから先も惨めな気持ちにだけはなりたくないなあ」と思っていたんだけど、
年をとるっていうのは、惨めな思いの連続かもしれないと思って、
ちょっと怖かった。

「自分のことを憐れんだり、なぐさめたりすることはしたくないなあ」と思っているんだけど、
別に悪いことじゃないのにどうしてこんなに嫌悪感があるのか考えたら、
かっこわるいからだ。
かわいくなくても美しくなくてもいいけど、カッコ悪くて惨めな思いをするのが嫌なのが、
わたし。
無様でダサくて人気がなくてもいいけど、自分のために必死になれないのが許せないのが、
わたし。
とんだ見栄っ張り。
見栄がなければ愛されなくてからっぽだなんて勘違いもいいところ。
こんなに恵まれてるのになー。
全然実感ないのな。ばかだな。冷静に考えればわかるのに、ほんとーに、ばかだ。

でも、やっぱり惨めな気持ちにだけはなりたくない。
自分を憐れむことなんてしたくない。
戦いたい。
必死でいたい。
そして最後には、すべてを肯定してにっこり笑いたい。
そのためなら、ちょっとくらい苦しい思いをしてもいい。
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by mouthes | 2012-11-11 02:18 | footmarks

01. 告白

ころころと、転がしたさいころがどこまでも転がっていくように、
「僕」が転がり続けている。
どの目が出るかはわからないが、決めあぐねているというよりは、ただただ身を任せて転がっている。
ころころと。
自分でもどうしてあの人のことが好きなのか、わからない。
美しいと思ったわけじゃない。
あの少し重たそうな奥二重の目や、細い首、少し丸い掌とか、
彼女の外見を、美しいと思ったわけじゃないのに、ただ惹かれてしまった。
彼女は髪が長かった。
あの少し痛んだ彼女の長い髪が、僕の胸を締め付けている気がしてならない。
美しいと思ったわけじゃない。
だけどあの長い髪ばかり思い出す。
僕はこんなにもあの人が好きだ。
「僕」が転がり続けている。
転がるほどに、賽の目は削れていって、たとえ止まったとしても、もう何が書いてあるかはわからないだろう。
僕は思う。
転がっているときだけが僕なのだ。
あの人のことを考えて、転がっているときだけ「僕」は実体でいられるのだ。
止まることは結果だ。
僕がしたいのは告白じゃない。
受け入れてもらうことなんて、きっと目的じゃない。
僕は、あの人のことが好きで、触りたくて、抱きたくて、目を見て好きだと言いたくて、
でもそのすべてをしたとしても、
全く満たされないだろう。
すればするほど、彼女が違う人間だということがわかる。
何も伝わらないという事だけが嫌というほど伝わる。
打ちひしがれて、無様で、惨めな気分になって、彼女の前で泣くんだ。
僕は空っぽなのだ。
彼女に差し出せるものなんて何もない。
彼女に見透かされれば僕は透明になって消えるだけだ。
僕が満たされないのは、僕のせいだ。
彼女のせいではないし、彼女を求めているわけじゃない。
僕は彼女が好きだ。
だけどそれだけだ。それがすべてだ。
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by mouthes | 2012-11-04 03:09 | words
ぐるりのこと。
アバウト・シュミット。
スイートリトルライズ。
ラビット・ホール。
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by mouthes | 2012-11-01 16:13 | footmarks