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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

「まぶしい」の地平で

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曽我部恵一「まぶしい」を聴いてる。
何度も何度も。
アルバムに先駆けて2/28に渋谷クアトロのライブに行ったことも強く影響している。



2/28の曽我部さんの放つ緊張感といったら、みたことがないほどすさまじかった。



事前情報にあったとおりの曽我部さんマイクのみ、尾崎友直さんギター、ソカバンでおなじみオータコージさんドラムという、
アメリカ西海岸を思わせるような(よく知らないけどそういうイメージ)不思議な編成は、
ライブハウスで目の当たりにしてもやっぱり不思議だった。
この編成を聞いて色めきだってワクワクした人もいれば、二の足を踏んだ人も多いだろう。
多作であり、七変化のように様々な表情を見せる曽我部さんの音楽だからこそ、
「またあのわかんないやつかな?」って思った人もいるだろう。
朗読とかラップを見せ続けられるやつなら今回は見送ろう、弾き語りかソカバンじゃないならやめておこう、
そんな風に行くのをためらった人もいるんじゃないかな。

結論から言うと、



あーあかわいそうにこのマヌケ!



って感じです!!!!



あの日見たものを適切に言葉にできる力が、今の私にはありません。
だって、今までのこととこれからのことが、
一気に体に流れ込んできて今の自分の中でひとつになったんだもん。
そんな体験は、本当に久しぶりだった。
5年前の受験勉強をしていた5月の昼下がり、
なぜか突然私の命は太古まで遡ることができるという事実を実感したあの瞬間とか、
生まれて初めて好きな人とセックスをして自分の痛みよりも他人の快楽を望めた時とか、
そういう時に味わった「これまでとは決定的に自分が変わってしまう瞬間」が、
あのライブにはあった。



何が変わってしまったか、わかるまでには時間がかかる。
だけど変わったことだけははっきりとわかる。
私が頑なにこだわっていたことの全てが、本当にくだらないことだとはっきりわかった。
名前や、契約や、経験による裏付け。
人の感情をつなぎとめる技術。
自分を卑下すること。
私を満足させるために必要だと思っていたことの全て。



なんて儚くてつまらないあれやこれ。
それをかき集めることに必死になって見落としてしまったものが、
そのライブには確かにあった。

それはわたしの感情。
好きな人に働きかける気持ち。
うれしいことをうれしいっておもうこと。
いじけたり諦めたりすることよりももっともっと強い求心力で私を巻き込む、
人の心に触れたいというあの強い欲望。



できることが増えて、選ぶことができるようになった時に忘れてしまったことが、
こんな形で自分に返ってくるなんて。

曽我部さんはFacebookに「自分の歌の上に重なっている色々なものを、ひとつずつゆっくりとかきわけていくような、払い落としてゆくような」ライブをしたというようなことを言っていたけど、
削ぎ落とせば削ぎ落とすほど、ライブハウスに曽我部さんが充満して行くあの感じは一体なんだったんだろう。
景色やメッセージが単純であればあるほど、見たこともないように感じるのは一体なんだったんだろう。
飽きるほど聞いたことのある歌が、思い出も感情も引き摺り出して体の中で爆発したのはいったいどういうわけだったんだろう。



聞き流すことのできない歌による嵐が、
私をずぶ濡れにして心の奥まで染み込んでしまって未だに乾かない。
私が今まで何を持っていたというのだろう。
手に入らなくて泣いて歯ぎしりをしていたものはなんだったのか。
はじめから、そんなものはなかったのに。

いままでデコボコの獣道だと思ってあくせくしていたものは、
それは自分が背伸びしたり這いつくばったりしてるだけのただの平らな地平だったって、言ったら信じる?



私が持っているものも、欲しいものも、たったひとつだけだった。
自分だ。
私は自分であって、自分になりたかった。

何度も聞いたことのある台詞。
聞いたことのある歌。
見たことのある景色。
その意味がやっとわかったのは、一瞬だけ自分になれたからだと信じたい。

「まぶしい」が歌っているように。
by mouthes | 2014-03-03 20:31