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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

01. 告白

ころころと、転がしたさいころがどこまでも転がっていくように、
「僕」が転がり続けている。
どの目が出るかはわからないが、決めあぐねているというよりは、ただただ身を任せて転がっている。
ころころと。
自分でもどうしてあの人のことが好きなのか、わからない。
美しいと思ったわけじゃない。
あの少し重たそうな奥二重の目や、細い首、少し丸い掌とか、
彼女の外見を、美しいと思ったわけじゃないのに、ただ惹かれてしまった。
彼女は髪が長かった。
あの少し痛んだ彼女の長い髪が、僕の胸を締め付けている気がしてならない。
美しいと思ったわけじゃない。
だけどあの長い髪ばかり思い出す。
僕はこんなにもあの人が好きだ。
「僕」が転がり続けている。
転がるほどに、賽の目は削れていって、たとえ止まったとしても、もう何が書いてあるかはわからないだろう。
僕は思う。
転がっているときだけが僕なのだ。
あの人のことを考えて、転がっているときだけ「僕」は実体でいられるのだ。
止まることは結果だ。
僕がしたいのは告白じゃない。
受け入れてもらうことなんて、きっと目的じゃない。
僕は、あの人のことが好きで、触りたくて、抱きたくて、目を見て好きだと言いたくて、
でもそのすべてをしたとしても、
全く満たされないだろう。
すればするほど、彼女が違う人間だということがわかる。
何も伝わらないという事だけが嫌というほど伝わる。
打ちひしがれて、無様で、惨めな気分になって、彼女の前で泣くんだ。
僕は空っぽなのだ。
彼女に差し出せるものなんて何もない。
彼女に見透かされれば僕は透明になって消えるだけだ。
僕が満たされないのは、僕のせいだ。
彼女のせいではないし、彼女を求めているわけじゃない。
僕は彼女が好きだ。
だけどそれだけだ。それがすべてだ。
by mouthes | 2012-11-04 03:09 | words