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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

年輪・歯車

今日は一段と寒さが堪える。
もうあまり感覚のないつま先をこすり合わせて、手先に吐息を当てる。
はあ、と出た息が白く姿を現し、寒々しさに拍車をかける。
ストーブのない冬には、とうの昔に慣れたはずだった。
それも仕事があってのことだったようだ。
するべきこともなく、会いたい人もおらず、じっと身をひそめるこんな日は、思えば久しいのかもしれない。
暮らしに追い立てられるように、孤独を突き放すために、働き続けていた。
体を温める酒でも買おうと思うが、ふと立ちあがって止める。
酒屋は二駅先にしかない。
二駅分を往復する電車賃と、それから安酒を買おうと思えば、明日仕事場へ行くための電車賃が足りなくなってしまう。
再びもとの姿勢でつま先をこすり、手先に息を吐く。
膝を抱えて丸まって、窓から少し離れた場所で日差しを得る。
窓枠の形に差し込む真っ直ぐの光線が、時間を止める。
埃っぽいこの部屋で、せわしなく手足を動かす私以外の、全ての時間を止める。
時間の止まった世界で、私だけが時を重ね、じっとりと老いていく。
骨ばったか細い左の手をなでる右手も、同じようにか細い。
光線は時折雲にさえぎられ、ゆっくりと時間が動き出す。
それよりも早く、私は老いていく。
自覚的になる一方で、奇妙な齟齬に襲われる。
ああ私はいつの間に、年老いてしまったのだろう。
瞬きをするたび、じっとりと老いていく。
今はもう遠い日々が、疼きを伴ってふと蘇る。
何もせず、ただ老いていく日。
by mouthes | 2010-03-01 18:16 | words