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皆殺し文学はやめだ

by mouthes

彼女へ

私のことが大嫌いな彼女へ



あなたとあの長いメールのやりとりをしてから、もうしばらく経ちました。
あのあと、頻繁に交わしていた電話も、メールもなくなり、mixiのマイミクもいつの間にか外され、
お互いに2度とやりとりを交わすことはありませんでした。

それでも私は、あのやりとりをする前よりはよっぽどすがすがしい気持ちで毎日を過ごしていました。
あなたとの関係が損なわれてしまったことは残念でしたが、
いつかこうなるのではないか、と思っていたことも確かです。
占い師の飯田さんに「あー相性は、全然ダメだね」と言われてしまったことも、
それまで不安や不満を感じていたあなたに確信させたのだろう、と思います。

私は、いつだってあなたの優しさ、人の良さに甘えて、そのくせあなたの話をてんで聞きませんでしたから。
そして、それをどこか「あるべき姿だ」と思ってしまう私の独善が、あなたを苦しめていたのでしょう。

わかっていながら、私自身はまったくと言って良いほど変わる気がありませんでした。今もそうです。
傷つきやすいあなたを延々と傷つきとおしてしまうのは、どうしようもない自分の性質だと居直る気持ちは変わりません。
それゆえにあなたとの関係が直ることも、ほとんど期待はしていません。
あなたに嫌われていることに不思議もなければ、好きになってもらおうという気もあまり起こりません。
好きになってもらったところで、今のままでは、私たちはいずれ同じことを繰り返すことがわかっているからです。

やっぱりあなたはとても優しい人です。
離れてあなたのことを考えているとき、しみじみと思うことが多いです。
自分の良いところもダメなところもわかっているがゆえに、わかりすぎているからこそ、
人と関わることに憶病になってしまう人でした。
今以上に傷つけられることを恐れて、自分の言葉で人を傷つけてしまうことが怖くて、
「傷ついた」となかなか自分からは言うことのできない、気の優しい女の子でした。
私のような独善的で、粗野で、欲深い心を持っている人の話でも、いつも聞いてくれました。
人の悪口や愚痴が大好きで、いつも罵詈雑言や下世話な軽口を叩いていた私に比べて、
人の悪口を言うことはおろか、悪く思うことにすら罪悪感を抱く、善良な心を持つ人でした。
「優しいね」と思ったままに言うと、「お人よしって言われますけどね」と照れて、ほんの少し自己嫌悪を抱いてしまう繊細な人でした。
私にとって、あなたを傷つけないことほど難しいことはないほど、あなたは優しかった。
その優しさは、どうしたって私には身に付かないし、しかし私にあなたほどの優しさがあれば、どれだけのひとを傷つけないで済んだだろうと思います。

私は今でも、毎日人を傷つけて生きています。そして、毎日傷つけられて生きています。
日々をそんな風に意識して生活するうちに、傷つけたり、傷つけられたりということは、仕方のないことだ、と思うようになりました。
私には私の言いたいことがあります。
そして相手にも同じように言いたいことがあります。
どちらかを通せば、もう一方は通りません。
相手に受け入れてもらうことも、自分が相手を受け入れることも、多少の痛みは伴います。
痛みは、あまり好ましいものではありません。
しかし痛みに捉われるあまり、人と深く関わることができなくなることのほうが、私にとっては恐ろしいことです。
人を傷つけることを良いことだとは思いません。ただ、悪いことだとも思いません。
傷ついてこそ得られるものがあります。傷つけるほど関係が濃くなるということもあるでしょう。
そうしたことを、単純に良し悪しで語ることはできない。そんな風に思うようになりました。
もちろん、誰かを傷つけたり、傷つけられたりすることは、耐え難いことでもあります。
罪の意識にさいなまれたり、胸の痛みで頭まで痛くなって何も手につかなかったりする、とてもつらいことです。
でも、そうしたことを引き合いに出しても、私にとって人と深く関わることは魅力的なことなのです。


人と深く関わること。
それが私の本当にしたいことだ、と最近思い当りました。
そのためには、自分の嗜好に頼らず、どんな人も受け入れよう、どんな人にも入り込もうとする姿勢が必要だとも、思いました。
どんな人であってもその人自身を見つめ、その人のことを考える。
それが私のしたいことであり、するべきことなのでは、と大仰なことを思う時もあります。


あなたは人を傷つけることを、とても恐れていました。
そして傷つけられることに対しても、誰より敏感でした。
それは、偏に「嫌われたくない」という真っ当な思いから起こることだったはずです。

私はあなたを絶対に嫌いません。
あなたはどんなに傷ついても私を受け入れてくれ、また入り込んできてくれたから。
真正面から向かい合ってくれる親友だったから。
私は今でもあなたのことを考えています。
当たり前のように思い出して、思い出し笑いをしています。
誕生日プレゼントにもらったあの下駄も、ずっと履いています。
靴ずれをしやすい右足の土踏まずの縁に絆創膏を貼って、いつでも履いています。


最近になって、一度だけメールをしました。
忌野清志郎さんが亡くなったからです。


あなたと私で、いつだったか、「ロックの定年はだれが決めるのか」という話をしました。

私は「甲本ヒロトだ」と言いました。あなたはそれにうなずきつつも、しばらくして、

「あたしにとっては、やっぱり忌野清志郎だ」と言いました。

私も、「そうかもね」と言って、その何気ない会話は終わりました。


その清志郎さんが、58歳で亡くなったことを知った時の衝撃と悲しみは、この瞬間も、リアルに蘇り、私を襲います。
知った時は悲しくて、悲しくて、それでもきっとわたしよりも悲しんでいる優しいあなたにメールをしたくなりました。
1通のやりとりでしたが、かなり心が軽くなったことも思い出されます。
ありがとう。

余談ですが、私は清志郎の告別式には行きませんでした。あなたはどうでしょうか?
私にとっても清志郎は存在感のある人でしたが、
たくさんの悲しんでいる人と同じように悲しめるほど、私は清志郎さんのことは知りません。
涙は出ますが、行く前から少し場違いな気がして行けませんでした。
テレビで繰り返し流される告別式の映像を見て、行かなくてよかったと思いました。
大勢の人が湛える、たくさんの大きな悲しみ。
わたしはきっと、気持ちが高ぶって同じように悲しんでいるふりをしてしまうでしょうから、自分の気持ちを台無しにしないためにも、行かなくてよかったのです。
テレビで放送されたヒロトの弔辞に、涙が出る。
それが私の悲しみでした。


長くなりました。
とても長いです。
しかもとりとめのないようにも、読めます。
また、あなたが読んでくれているかどうかもわかったものではありません。
こんなことを垂れ流してどーなるもんでもないこともわかっています。
しかしどんなに嫌われても、やっぱりあなたと関わっていたいし、もっと関わりたいと思う気もちに嘘偽りのないことを、ここらへんでびしっといっといたほうがいいと思って、書きました。


最近、こちらの昼は夏のように暑いです。そちらはどうですか?
5月になりましたが、5月病にはなっていませんか?

手紙の書き方としては、順序が逆だと思いましたが、こちらのほうがしっくりくるので書きなおすのはやめにします。
読んでくれてありがとう。
また、いつかのように遊びましょう。
by mouthes | 2009-05-12 18:03 | footmarks